便秘

1.症状
 便秘は排便の回数が3~4日に一回未満で、排便の時間が長い、または便意はあるが排便困難である、便が硬くてうさぎの糞のようにコロコロしている、量も少ない状態、残便感があることをいいます。
 便秘に伴う症状には、腹部膨満感、頻回なゲップ、倦怠感、肌あれ、吹き出ものなどがあります。

2.原因・機序

(1)西洋医学的な原因・機序

 飲食物の栄養のほとんどは小腸で消化吸収されます。大腸は、小腸で吸収されなかった残りわずかな栄養素や水分を吸収し、栄養がなくなった物質を便として肛門の方に押し出します。この運動を「蠕動(ぜんどう)運動」といいます。
 緊張やストレス、水分不足・食物繊維不足・運動不足、薬の副作用などが原因で大腸が正常に動かないと便秘になります。また、潰瘍性大腸炎、直腸脱、糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷などといった病気が原因で起こる場合もあります。

 健康な状態の腸内には、腸内細菌があります。その中には、良い影響を及ぼす細菌と悪い影響を及ぼす細菌、また、良い細菌にも悪い細菌にも当てはまらない細菌があります。この細菌のバランスが崩れると便秘になりやすくなります。

(2)東洋医学的な原因・機序

 東洋医学的な考えでは、便秘に深く関係する臓腑(ぞうふ)は「胃」と「大腸」です。

 便秘には臓腑の働きだけでなく気血の流れも関わっており、「熱がこもる」「気の動きが悪い」「冷えがある」「血が不足している」などが原因で起こると考えられています。例えばアルコールや辛いもの、味の濃いもの等は身体に余分な熱を発生させます。体に熱がこもると水分代謝が悪くなり「胃腸」が乾燥し便秘を引き起こします。

 また過労による慢性疲労や睡眠不足で気(心身のエネルギー)が回復できないと「大腸」を動かす力が弱くなり便秘になります。座っている時間が長いなどあまり動かないのも気の動きを悪くする要因のひとつです。高齢者や女性、もともと体が弱い人などは体全体を温める力が弱いため、特に下腹部が冷えて排便困難となります。貧血気味の人や生理後・出産後血が不足している場合は、「腸」が潤いを失うためにウサギの糞のようなコロコロした便になりやすくなります。

3.鍼灸治療

 まず生活習慣や排便状況を確認することで、排便を習慣的なものへと導くアドバイスをします。

 治療としては、胃の状態を改善することで大腸の働きを促し、気血の流れや下腹部の冷えの改善により便秘の解消へとつなげます。便秘で使用する基本的なツボは天枢・大巨・上巨虚・足三里・支溝です。冷えが強い人はこのほかに関元というツボにお灸をしたり、気が不足している人には大腸兪などのツボを使ったりします。特に天枢穴への鍼治療は、難治性の便秘患者への改善効果が高いです。

 人によって体質や便秘の原因は異なります。それぞれの体質や原因にあわせて、腹部や腰部、手足のツボを使用し全身を治療します。

風邪

1.症状

 かぜの自覚症状は様々ですが、発熱、頭痛、全身倦怠感、鼻症状(鼻水、鼻づまり)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(せき、たん)があげられます。これらの症状は、体を治そうとする免疫の働きが活発になり現れる症状です。
 体がウイルスと戦っていると、粘膜内部の組織に炎症が起こり、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりなどの症状を引き起こします。また、気道でも粘膜の炎症が起こり、咳やたんで異物を外へ出そうとします。発熱はウイルスの侵入により体に異変が起こったことを知らせると同時に、自分で自分の体を治そうとする免疫の働きが活発になっているサインです。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 かぜ症候群は、上気道(鼻、咽頭、喉頭)の急性炎症のみでなく、最近は下気道(気管、気管支、肺)にまで広がって急性炎症をきたす疾患を総称していわれます。
 かぜの原因の中でもその90~95%はウイルスだといわれています。ウイルスは非常に小さい物質で、人の病気の原因となる微生物の中では最も小さいものです。そのため自分が生きていくための物質を独力で作るだけの機構を備えていないため、ほかの細菌や動物の細胞に寄生して増殖していきます。
 ウイルスは200種類以上存在していて、中でも風邪の原因として多いのがライノウイルスやコロナウイルスです。ライノウイルスやそのほかのRSウイルスと呼ばれるウイルスでは、大人だとかぜの症状で治まることが多いですが、子供がかかると気管支炎などにまで進む場合もあります。これらのウイルスはかぜをひいている人がくしゃみをしたり、話をしたりして出た飛沫がしばらく空気中を飛散したのち、それを吸い込むことでうつります。これを飛沫感染といいます。この飛散中のウイルスは温度や湿度によって影響を受けることが知られています。湿度が40度以下の空気中ではウイルスの活性が比較的長く維持されます。

(2)東洋医学的原因・機序

 東洋医学では風邪を「ふうじゃ」とよび、風による邪気の影響とされています。ウイルスや細菌の存在が認識されていなかった時代から、風邪の影響により身体の弱い人はかぜの症状を発症しやすいと考えられてきました。
 自然に吹く冷たい風が体にあたることで、体から熱を奪いゾクゾクと寒気が起こる寒邪のタイプや、体に湿が溜まっていることで鼻水やくしゃみを発症させる湿邪のタイプ、寒気はなく高熱が出る熱邪のタイプなど、かぜも様々な邪気の影響により分類されています。

3.鍼灸治療

 鍼灸治療は、かぜの諸症状を緩和させる目的で行われます。

 鼻水などの鼻炎症状では鼻周囲にある迎香のツボ、頭痛には天柱や風池、関節痛には合谷・外関・曲池・足三里・陽陵泉などのツボを使います。

 かぜの引きはじめに多い寒気には、背中にある大椎や風門などのツボをお灸などで温めるといいです。ただし、高熱や喉の腫れ・痛みなどがある際には悪化させてしまう場合もあるので注意が必要です。
 
 かぜの急性期を過ぎて発熱がおさまっても、咳や倦怠感、胃腸症状などが残る場合があります。そのような場合にも鍼灸治療は効果的です。
 
 咳には、肺兪や中府などの肺の気が強くなるツボを使います。胃腸症状では、臍にお灸をしたり足三里のツボを使います。倦怠感には全身的に灸を使いますが、免疫力も調整できるため早く改善しやすいです。

喘息

1.症状

 喘息の主な症状として、咳・たん、喘鳴(息をする時にゼーゼー・ヒューヒューと音がする)、呼吸困難(息苦しさ)などが現れます。これらの症状は夜間睡眠中に現れることが多く、咳で眠りが障害されることもあります。発作の程度がひどくなると苦しくて横になれない場合や、動作がかなり困難になる場合もあります。
 重度の喘息発作が起こると、呼吸困難の程度が強いため、話すことや歩くことなどが難しくなります。また、酸素の欠乏により、血液の色が黒っぽくなり、爪や唇の色が青紫に変色することもあります。

 喘息発作は、夜から早朝にかけて起こりやすくなると言われています。寝ている間は昼間より呼吸する量が少なくてもいいので自然と気道が狭くなります。 そこに朝方の冷たくなった空気を吸い込むと、気道はいっそう狭くなり、また冷たい空気が刺激となって、発作が起こりやすくなります。

2.原因・機序

 喘息はゴホゴホと咳き込むため、のどの病気と思われがちですが、肺までを含めた「気道(特に気管支)」が慢性的なアレルギー性の炎症を起こしている病気です。気道とは、平滑筋という筋肉で囲まれ、粘膜で覆われている空気の通り道です。炎症によって敏感になった気道が様々な刺激に対して反応して狭くなることによって、咳や喘鳴などの症状が発現します。この症状が発現した状態を「喘息発作」と呼びます。さらに重症の発作を「喘息重積発作」と呼び、気管支喘息の危険な状況です。
 喘息発作は、ダニやほこりなど特定の抗原への過剰な免疫反応(アレルギー反応)によって引き起こされる場合や、大人の喘息で多く見られるようにアレルギー反応以外の因子によって引き起こされる場合があります。ご自身の喘息を悪くする原因を知り、原因を除去、または避けるように心がけることが重要です。

 近年では大人の喘息が急増しており、大人の喘息は小児喘息に比べ治りにくいといわれます。働き盛りの40代を超えてからの発症が半数以上を占めることから分かるように、仕事の過労、ストレスのせいで重症化しやすいこと、年齢と共に気道や肺の機能が低下することなどが主な原因といわれております。

3.鍼灸治療

 気管支喘息は生命に関わる病気です。薬物治療と並行して鍼灸治療を取り入れていく方法が安全かつ、治療効果もより引き上げることができます。
 気管支喘息の鍼灸療法においては、喘息発作を引き起こしにくい体質にしていくことを第一の目的とします。そのため発作が出ていない安定期に、全身の体調を整え、体のコリや疲労、ストレスを取り除く目的の治療を行っていきます。また同時にお灸により血行不良を改善し、免疫力を上げていくことも有効です。さらに気道の過敏性を抑制することに副交感神経が関与するため、自律神経機能の調整もはかります。
 主に用いられるツボとして「中脘」「関元」「肺兪」「脾兪」「腎兪」「太淵」「尺沢」「中府」などがあります。

 また喘息発作は上部胸式呼吸を招く場合が多いので、症状を増悪させる緊張した頸肩部のコリを緩めていく治療も合わせて行い、つらい症状の悪循環を断ちます。この場合のツボは「風池」「完骨」「天柱」「肩井」などが用いられます。

 これらのようにそれぞれ原因が異なる喘息に対して、有効な鍼灸治療を行っていきます。

動悸(心臓神経症)

1.症状

 動悸とは、普段意識しない心臓の拍動やその乱れを自覚し、それに対して不快を感じる症状です。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 動悸は心臓疾患や癌、自律神経の乱れなどからくる症状の一つで原因は様々です。不整脈や強い心拍動、精神不安によるものなどがあります。
心臓の拍動は自律神経の働きによりコントロールされています。精神的に興奮した時や緊張した時に交感神経が働き、血圧や心拍数が上昇します。このように精神的な興奮や緊張する場面で起こる動悸は問題がなく心配することはありません。しかし、精神的に緊張する場面でもないのに動悸を感じる場合は、心臓疾患や癌、甲状腺機能亢進症など疾病の一症状の可能性があり、専門の医療機関の受診が必要です。例えば心臓疾患の場合、心臓に栄養を与える血管である冠状動脈である冠状動脈が細くなったり、つまったりすることで心筋に栄養が行き渡らず鼓動が速まります。また、甲状腺機能亢進症の場合は、身体の代謝が活発になることで身体に熱がたまり脈拍が速くなり、動悸を感じるようになります。更年期症状では女性ホルモンの減少に伴い自律神経の働きが乱れることで、顔のほてりや息切れ、動悸がおきます。
 それ以外に、検査をしても心臓にも内臓にも全く異常が見つからないという場合があります。これは自律神経の乱れからくる症状として捉えられ、心臓神経症と診断されます。

(2)東洋医学的原因・機序

 動悸は東洋医学では「心悸(しんき)」といわれ、心臓の拍動を自覚し不安になることです。「心」の働きは「心主血脈(心が血と脈を管理する)」「心主神志(心が意識や感情、生命活動を支配する)」といわれており、心悸は過度なストレスや飲食不摂生、長期間の疾病、思慮過多(長く思い悩む)、体質などが原因でおこることが多いと考えられています。
 例えば、過度なストレスが「肝」に影響を与えることでエネルギーの流れが滞ると身体の中の水分が徐々に少なくなっていき、粘り気のある「痰」を作ります。また、飲食不摂生により「脾」が傷つくと消化がうまくできなくなり、余分な水がたまります。こうしてできた痰や余分な水が心に影響を及ぼすと「心悸」がおこります。随伴症状としてイライラや焦燥感、口苦(口の中が苦く感じる)などを感じることがあります。
 また、長期間の疾病は心身を疲労させ、精神が不安定になりがちです。エネルギーを作り出す力もそれを全身へと巡らす力も弱まるため、血脈の鼓動が弱くなり、心を滋養できなくなり心悸をおこします。それ以外に思慮過多が原因となることもあります。これは、あまりに思い悩みすぎると徐々に食欲がなくなり、ご飯が食べられなくなります。すると「血」の生成が減少し、栄養が「心」へと行き渡らないからです。この場合は、不眠やめまい、多夢(夢を多く見る)などの症状を伴うことがあります。
 血行不良に働きすぎや寒さなどのマイナス要素が加わることで血の流れが滞り、それが心悸の原因となることもあります。この場合は心悸に加えて胸苦しさや胸痛、肩などへの放散痛などを伴います。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 心臓疾患や癌など内臓疾患からくる症状の場合、鍼灸治療は第一選択にはなりません。専門の医療機関での治療が必要です。
 心臓神経症に対する鍼灸治療では、左背部の圧痛点やコリへの治療を行います。また、心臓の反応が神経を介して胸部の皮膚や筋肉にも現れてきますので、その反応に対して鍼やお灸でアプローチを行います。ゆったりと気持ちのよい鍼灸治療を受けることで自律神経の働きの乱れを改善します。

(2)東洋医学的治療

 「心」に影響を与えている原因を取り除き、「心」の機能を安定させる治療を目指します。例えば過度なストレスや飲食不摂生が原因の場合、痰や余分な水を取り除くための「豊隆」や肝の気を動かすための「太衝」などのツボを使います。思慮過多が原因の場合は、消化器官の機能を高める「脾兪」「足三里」、血の流れに滞りがある場合は「血海」を使います。そして「心」の機能を安定させるため、「通里」「神門」「心兪」などのツボを加えます。複数の原因が重なっていることがありますので、それぞれに合うツボを探して施術をおこなっていきます。

高血圧

1.症状

 病院や健診施設などで測定した血圧値が、最高血圧140mmHg以上または最低血圧90mmHg以上の状態(140/90mmHg以上)をいいます。自宅で測定する家庭血圧では、それより低い135mmHg以上または85mmHg以上(135/85 mmHg以上)が高血圧とされます。
 高血圧は様々な臓器に負担をかけ、脳卒中、心筋梗塞、高血圧網膜症などのリスクを高めます。高血圧自体には自覚症状が無いため、「静かに忍び寄るサイレントキラー」とも呼ばれています。

2.原因・機序

(1)西洋医学的機序
 高血圧は明らかな原因が特定できない本態性高血圧と、疾患に伴う二次性高血圧に分けられます。ここでは、機序が明らかで代表的な二次性高血圧について述べます。

 1.腎血管性高血圧症
 腎血管性高血圧症とは、腎動脈の狭窄が原因で、腎に血液を流すための圧力の低下によりレニン(血中のアンジオテンシンや副腎のアルドステロンというホルモンを活性化して血管を収縮させ、塩分の吸収を促し血圧を上げる酵素)の過剰産生を生ずることにより発症する高血圧症のことで、全高血圧患者の約1%を占める疾患です。

 2.バセドウ病(内分泌性高血圧症)
 甲状腺ホルモンが過剰になると、収縮期高血圧(上の血圧が高い高血圧)が特に高くなります。甲状腺ホルモンが直接的に心臓を刺激し心拍出量が増えること、甲状腺ホルモンの作用で交感神経が活性化され、間接的に心臓が刺激されること、そして、甲状腺ホルモンが直接、交感神経・アドレナリンβ受容体を介して間接的に腎臓に作用し、レニン‐アルドステロン系を活性化することで血圧が上昇します。

 3.薬剤性高血圧症
 医療用薬剤のうち非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、エリスロポエチン、経口避妊薬,交感神経刺激薬などは血圧上昇作用があります。高血圧の誘発はもちろん、降圧薬との併用により降圧効果を減弱させる可能性が指摘されています。高血圧患者が他の疾患を合併し、複数の医療機関を受診することは珍しくありません。これまで血圧管理ができていた患者の血圧管理が困難になった場合や、コントロール不良の高血圧の場合は、薬剤誘発性高血圧の可能性を考慮する必要があります。

 4.本態性高血圧症
 本態性高血圧とは、「原因不明の高血圧」の意味であり、遺伝と環境の相互作用によって起こると考えられています。高血圧の90パーセントが本態性高血圧です。遺伝性があり、家族が高血圧の場合、高血圧になる可能性が高く、人種差もあります。環境としては、老化の影響があります。肥満すると高血圧になる可能性が5倍になります。塩分の高い食事、アルコールの過剰摂取、糖尿病、運動不足は高血圧のリスクを高めます。
 精神的ストレスの多い生活では、交感神経緊張により、高血圧になりやすいことが指摘されています。

(2)東洋医学的原因・機序
 東洋医学では、老化などによる腎虚、ストレスによる肝火、高カロリーの食事による痰が原因と考えられます。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療
 血圧を調整しているのは自律神経です。交感神経の活動性が高いときは血圧が上昇し、副交感神経の活動性が高いときは血圧が低下します。現代の研究で、鍼刺鍼は脳でエンドルフィンという麻薬様物質を分泌させ、ストレスを低減し、血圧を下降させます。

(2)東洋医学的鍼灸治療
 東洋医学では、ストレスで肝火が上がっていると考え、下肢に鍼をして肝火を降ろします。肩や首にある天柱、風池、肩井などのツボに刺鍼して身体の上部の気をめぐらせます。下肢にある三陰交や太溪のツボに刺鍼して気を降ろします。豊隆などで去痰の治療を行います。