1.症状

 主には肩関節部の痛みと関節の動きの制限がみられます。炎症が強い際は痛みにより睡眠が妨げられたりするなど安静にしていても痛みが常に気になるほどです。痛みや運動制限のため、ズボンの後ろポケットに手が回らない、洗髪時に頭まで手が上がらないという訴えもよくあります。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 五十肩(時には四十肩ともいう)は、専門的には肩関節周囲炎といわれます。基本的には加齢により肩関節周囲の筋肉や腱・靭帯などの力や柔軟性・弾力性が低下し、それらに炎症が起こり痛みをだしたり、関節の動きを制限したりします。しかし同じような肩の痛みを伴う症状であっても、骨腫瘍や急性滑液包炎、腱断裂、また重篤な内臓疾患からくる肩の痛みなど鍼灸治療が第一選択の治療法には当たらない場合もあり、鑑別が必要となります。

(2)東洋医学的原因・機序

 五十肩は基本的に外部環境(風・寒・湿)の影響を受けておこる痺証(ひしょう)ととらえます。
 まず風邪(ふうじゃ)によるものは発痛部位があちこち移動する遊走性です。寒邪による痛みは発痛部が固定型で激しいのが特徴です。湿邪は発痛部位が固定型で関節の動きが特に制限されるのが特徴です。症状は長期化すると、時に熱邪の反応として患部に熱を持つことがあります。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 五十肩は炎症期と非炎症期に分類されます。肩関節は前後・内外・捻り運動など様々な方向に動く、自由度の高い関節です。このような運動が可能なのは関節を作る骨の形に特徴があるためと、もう1つはそれぞれの動きに対応する多くの筋肉が存在するためです。しかし、運動の自由度が高い分、不安定で負担も多く、痛めることも多い関節です。
 炎症期は肩関節に存在する筋肉や腱などの一部に傷が入り炎症を起こしている状態です。どの組織に炎症があるかによって肩の前後・外、はたまた全体など痛む部位も変わります。そして制限される動きの角度や方向も変わります。
 炎症が存在することが疑われる場合はどの部位にそれが起きているかを診察します。筋肉のある一部に傷が入り炎症を起こしている場合は、その筋肉の他の部位にも強い緊張やコリがみられるのが普通です。そのため炎症期の治療では二つの目的で処置を行います。
 一つ目は炎症を鎮めるために行うものです。二つ目は炎症を起こしている患部への負担を軽減させるため、患部に関連する筋肉などの強い緊張やコリを緩めることを行います。
これは鍼灸治療がもつ消炎作用と血行促進作用を使った治療です。
 非炎症期は、炎症期を経過し炎症が鎮静化した後や、もともと強い炎症は発生せずにただ強い筋肉の緊張やコリなどにより、ある一定の痛みと動きの制限、こわばりが見られる状態です。治療では一種類の筋肉を緩めるだけでこわばりが改善するケースもありますし、肩関節周囲の筋肉だけでは足らず、背中や胸などの筋肉を緩めることで初めてこわばりが改善するケースもあります。非炎症期は、鍼灸治療がもつ鎮痛作用と血行促進作用を使った治療です。血行が促進されることで筋肉などの組織の柔軟性や弾力性が回復します。また非炎症期には、自身で関節の動きを回復させる為に運動法も積極的に取り入れることが必要で、その指導も治療の中でおこなっていきます。
 これらの治療をおこなうことで、夜間の痛みのようにじっとしていても感じる痛みの消失や、通常では症状の改善まで半年から一年半といわれる期間を短縮することができます。

(2)東洋医学的治療

 それぞれの症状の原因にあわせ、風邪・寒邪・湿邪を取り除くことを行います。
 肩関節の部位をとおる経絡(気の流れる道筋)の気血の滞りを改善する為、特に手や腕にあるツボを使用し、それらに鍼や灸を行います。また、風邪・寒邪・湿邪に侵されないための日常生活の指導も行います。