1.症状

 頸肩腕症候群とは、首、肩、腕、手指にかけて、痛みやしびれ、だるさ、脱力感、冷たさなど、何らかの異常をきたす症候群の総称です。手のしびれの原因は、部位、範囲、持続時間、程度、他の部位のしびれや痛みとの併発などによって、ある程度は予測されます。頚椎椎間板ヘルニアや変形性頚椎症、胸郭出口症候群など、整形外科での診察や検査などで診断がつくこともありますが、原因が特定できない場合に頸肩腕症候群と診断されます。近年では、パソコン作業などを長時間行うことも増え、目だけでなく手や腕を酷使することで頸肩腕症候群に悩まされる方が増えています。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 手のしびれの原因は様々で、血行阻害による血行障害、神経圧迫などによる神経障害などが考えられます。朝起きたときに手がしびれているがすぐに治まるような場合は、一過性の血行障害の場合がほとんどです。ただし、繰り返し発症し肩などの関節痛や関節を動かすことでしびれが変化するような場合は、脊髄や頚椎神経根、関節などに原因がある場合があります。整形外科で診察や検査を受けても原因が分からない場合には「頸肩腕症候群」の診断名が残ります。
 頚椎などに異常が見られない場合の原因のほとんどは、首や肩、腕などの筋肉の緊張からです。特に長時間同じ姿勢を取り続けるパソコンなどの事務作業や、保育や調理など手や腕を酷使する職業の方々によく見られる症状です。
 まれに、脳脊髄疾患や糖尿病などの神経症状が原因の場合もあるため、まずは医療機関を受診することをおすすめします。

(2)東洋医学的原因・機序

 東洋医学的に起こる手の痺れは、気血の滞りにより発症すると考えられています。
 体の外からの邪気(外邪)のうち影響しやすいのは、風邪・寒邪・湿邪です。この3つの外邪は同時に身体を侵しますが、体質や環境により特に影響を及ぼす外邪があります。痛みやしびれの場所があちこち動く場合は「風邪」、症状が強く、発症部位が固定されており、寒さや冬になると増悪する場合は「寒邪」、発症部位が固定されており、重だるさがある場合は「湿邪」がより強く影響していると考えます。
 またストレスや同一姿勢を長時間続けることも気血の流れを悪くする要因となります。気血の滞りが上半身に起こると、首、肩、腕などの筋肉のコリにもつながります。
 首や肩に空調の風があたる状態で、長時間デスクワークを行うことも発症のきっかけになります。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療
 整形外科等では原因がはっきりとしない場合、鎮痛剤の投与や温熱療法などの対症療法が行われます。鍼灸治療では、しびれや痛みを引き起こしていると考えられる頸椎周辺の筋緊張やコリに対して施術を行い、神経圧迫や血行不良を改善し、それらの症状を軽減・解消させます。原因がはっきりとせず、治療を続けていても症状が改善しない場合は、精神的に落ち込むこともあります。そのような方へは、自律神経症状を安定させるような施術を加えることで、しびれの症状も軽減することがあります。

(2)東洋医学的鍼灸治療

 気血の流れをよくするために、患部局所とそこを通る経絡に対して鍼灸治療を行います。
 さらに特に影響を及ぼしている外邪に対して、それぞれ次のような治療を加えます。
 「風邪」を取り除くためには風池・風門・膈兪・血海・太衝、「寒邪」には腎兪・関元・湧泉、「湿邪」には陰陵泉・足三里・豊隆といったツボを使い、鍼やお灸、その両方の効果を一度に与える治療法の灸頭鍼(※鍼の上にもぐさを乗せたもの)などを行います。