1.症状

 食欲不振とは、食べ物を目の前に出されたとしても食べたいという欲求を感じない状態のことをいいます。空腹を感じない、美味しそうな物を見ても食べる気がしない、食べている途中で胸焼けや吐き気などの気持ち悪さを感じる、食後に胃の不快感が残るなどの症状が現れます。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 食欲不振の原因を大きく分けると、消化器系の異常が原因の場合と、精神的なものによる自律神経の乱れの場合とに分けられます。
 消化器系の異常には、胃腸炎や逆流性食道炎、胃潰瘍、胃がんなど、様々な病気があります。ただし、これらの病気の症状は食欲不振だけではないため特定が困難です。異常が長引くようであれば医療機関の受診を忘れずに行ってください。胃腸の疾患以外には、妊娠中のつわり、薬による副作用、暴飲暴食など、様々な原因が考えられます。
 検査をしても問題が見られない場合は、自律神経の乱れが原因の場合があります。精神的や肉体的なストレスによって自律神経である交感神経が過剰に刺激されると、副交感神経が抑えられるため食べ物の消化や吸収を促す胃腸の活動が衰えてしまい、食欲の低下につながることがあります。ストレスにより交感神経が優位な状態が続くと、肩こりや頭痛、倦怠感などの症状も現れる場合があります。
 ほかにも、運動不足や睡眠不足など生活習慣の乱れが原因の場合があります。運動不足の場合は、身体のエネルギーを消費していないため栄養素を補給する必要がなく、空腹感を感じることが少なくなります。大幅な体重減少が起こっていないかどうかも注意が必要です。

(2)東洋医学的機序・原因

 東洋医学では食欲不振を「不嗜食(ふししょく)」と呼ばれ、主に「胃」「脾」といった臓腑が関連しています。胃は消化、脾は栄養素の吸収・運搬の作用をしており、「胃・脾」は西洋医学の胃・小腸・大腸のような消化吸収の働きをしています。
 東洋医学で胃は気を下に降ろす働きがありますが、食べ過ぎなどが原因で胃気上逆(いきじょうぎゃく)といって胃気が下に降りない状態になり、食欲不振の症状があらわれます。
 ほかにも、慢性的な胃腸の弱りからくる脾胃虚弱、ストレスによる肝胃不和、消化不良による食滞、暴飲暴食や脂っこい物の食べ過ぎによる脾胃湿熱などに分類されます。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 食欲不振の治療を行う場合、まずは鍼灸治療の適応かどうかを診ます。医療機関の受診を行い、問題が特定できなかった場合や、異常があっても症状が慢性的に続いている場合には、鍼灸治療により軽減する場合が多いです。
 その場合の治療は、主に内臓体性反射に基づいて行います。内臓体性反射とは、内臓が原因で筋肉や皮膚など体のどこかに異常が現われる、脊髄を介して起きる反射反応の一つです。腹部や背部の筋肉に現われた筋緊張や硬結に対して鍼はお灸を行っていきます。症状に合わせて、自律神経の乱れを整えるための治療を行っていきます。

(2)東洋医学的鍼灸治療
 胃気上逆の場合、胃の気のめぐりを改善させる目的で、足三里や背中の内臓に関連する膈兪・肝兪・脾兪・胃兪などのツボを使います。
 ほかには、慢性的な胃腸の弱りには中脘、ストレスによる食欲不振には期門・太衝、消化不良の場合には天枢・公孫・裏内庭、暴飲暴食や食べ過ぎの場合には曲池・内庭などのツボも合わせて使います。