1.症状
 下痢は水分を多く含んで形がない便が出る状態のことをいいます。ひどい下痢の場合には、排便の回数が増え一日4回以上になることもあります。下痢に伴う症状には腹痛、腹部膨満感、食欲不振、倦怠感、腰腹部の冷えなどがあります。

2.原因・機序

(1)西洋医学的な原因・機序

 下痢は腸の動きや状態の変化によって発生し、経過によって急性下痢と慢性下痢に分類されます。急性の下痢症状は暴飲暴食、ノロウイルスや細菌などの感染症、食中毒などが原因で起こります。慢性の下痢症状は食べすぎ、飲酒、ストレスや緊張などといった日常的な原因から、癌や潰瘍など命を脅かす疾患の一症状まで多岐に広がるのでより注意深い鑑別が必要になります。
 癌や潰瘍では、腸内の炎症により腸の粘膜から分泌液が流れ出て下痢になります。また、食べすぎの場合は、消化しようと腸の蠕動運動(腸の内容物を肛門まで運ぶ運動)が普段より活発になるため、かえって吸収が低下し下痢が起こります。アルコールをたくさん飲んだ時は、腸粘膜への刺激により蠕動運動や分泌液が過剰となるため下痢が起こります。ストレスや緊張、また女性に多くみられる冷えによる下痢は、自律神経の働きが不調になることで腸の消化吸収機能が低下し、蠕動運動が亢進することで起こります。消化吸収機能と蠕動運動とのバランスの悪さから消化されていないものや水分を多めに含んだ便になります。
 突然、通勤中に腹痛が起こり、途中下車してトイレに駆け込むなどといったことが何度か起こるような場合は、「過敏性腸症候群」の可能性があります。「過敏性腸症候群」とは、検査をしても全く異常がないのに腹痛や腹部の不快感に下痢や便秘を伴う症状が慢性的に起こる病気です。下痢型、便秘型、下痢と便秘が交互に起こる交代型、ガスが腸にたまるガス型などがあります。女性にやや多くみられ、20代~40代が好発年齢です。原因は不明ですが、免疫異常やストレスが関わっているのではないかと言われています。ストレスによって症状が悪化するため、ストレスの軽減が重視されます。

(2)東洋医学的な原因・機序

 下痢には外的要因と内的要因があります。外的要因としては、冷たいものやお酒の飲みすぎ、刺激の強いものや不衛生な食べものの摂取、身体を冷やす、精神的なストレスなどがあります。内的要因は、その人が本来もつ体質的な問題です。例えば、もともと胃腸などの消化器系の働きが弱かったり、身体を温める働きや必要なエネルギーを全身に巡らせる力が足りなかったりといった場合です。
東洋医学の考えで下痢と関係がある臓腑(ぞうふ)は「脾胃(ひい)」「肝」「腎」です。
 「脾胃」は飲食物を消化してエネルギーを生み出し、栄養を吸収して全身に巡らせる働きがあります。この機能が低下すると下痢が起こります。「肝」は、気の流れをスムーズにし、精神面の調節において重要な臓腑です。普段から情緒不安定やストレスがあると、肝気の流れが悪くなり、消化機能に影響を与え下痢になります。「腎」には体温調節をし、内臓を正常に働かせる機能があります。
 例えば、テストの前に緊張するとお腹が痛くなり下痢をすることがあります。これは精神的なストレスにより、「肝」の働きが強くなりすぎることで、「脾胃」の消化機能を阻害することでおこります。また、高齢者の中には、食が細く、手足に加え腹部など全身に冷えがあり、明け方(4時~6時)に腹痛を起こし、排便後軽快するケースがみられます。これは、腎の働きが弱くなることで身体が冷えるためにおこります。

3.東洋医学的治療

 まずは下痢の原因を探ります。感染症、癌や潰瘍など器質的疾患が原因の下痢ならば、鍼灸は治療の第一選択肢にはなりません。専門の医療機関を受診してください。
 精神的ストレスや下痢になりやすい体質などが原因の場合、鍼灸治療では「脾胃」「肝」「腎」の働きを改善する治療を行います。脾胃の働きを高めるために「中脘(ちゅうかん)」「天枢(てんすう)」「足三里(あしさんり)」「脾兪(ひゆ)」などのツボを使います。またストレスなどで肝が正常に働かないときは「太衝(たいしょう)」「陽陵泉(ようりょうせん)」などのツボを使います。「腎」の働きが弱まっているときは、「関元(かんげん)」「命門(めいもん)」などといったツボを使い、お灸をして温めることもあります。このような足や腹部、腰部のツボに鍼やお灸をすることで下痢とそれに伴う様々な症状を改善します。
 また体質改善のため、鍼灸治療に加えて、食習慣を含めた生活指導も行います。
 下痢が続くということは身体の水分の多くが流れ出ているということになります。下痢が続く場合は、必ず水分補給をしましょう。コーヒーやアルコールなどといったものは利尿作用があるため、水分補給にはなりません。常温水やスポーツドリンクなどの摂取を心がけてください。