1.症状

①チック

 チックの種類は運動性チックと音声チックに分けられ、ここでは運動性チックについて紹介します。
 運動性チックでは、まばたきや口を歪める、頭をねじる、肩をすぼめる、手をくねらせる、体幹をそらせる、また蹴るような動きやスキップがみられることもあります。まばたきは日常動作でみられるものであり、多少まばたきが多くてもさほど目立ちません。しかし、動作が大きいチックは周囲の人の目にとまりやすく、本人も気にするようになります。また、手のチックなどでは、字を書くのが困難になるなど、日常生活に支障をきたすことがあります。

②眼瞼けいれん

 眼瞼けいれんの初期症状としては、眼瞼(まぶた)の刺激感・不快感、羞明(まぶしさ)や瞬目(まばたき)過多などがあります。症状が進行すると、眼瞼が頻繁にけいれんし、さらに進行すると自分の意思でまぶたを開くことができず、視力異常がなくても機能的に失明状態に至ります。
 精神緊張の影響を受けることも多く、緊張で増悪する例がある一方、日常では重症であるのに診察室では無症状という例もみられます。症状は通常、両側対称性ですが、軽度の左右差が認められることも少なくありません。
 また、一時的に軽くピクピクする症状は眼瞼ミオキニアといい、主に目や体の疲れが原因です。疲れがとれると自然に治まります。

③こむらがえり

 私たちは、自分の意思によって、手足を自由に動かすことができます。つまり、手足の筋肉の収縮は、大脳の命令を受けて行われており、筋肉にある受容体が調整しています。しかし、この調節がうまく行われない場合、筋肉は収縮した状態のままとなり、強い痛みを起こします。これが、こむら返り(有痛性筋痙攣)です。
 「こむら」とは、元々ふくらはぎのことで、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋とヒラメ筋)が痙攣することをこむら返りと言いますが、地域によっては他の筋肉に起こった場合も、こむら返りと呼ぶことがあります。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

①チック

 原因は確定していませんが、大脳基底核におけるドーパミン系神経の過活動仮説が提唱されており、ドーパミン神経活性低下に随伴した受容体過感受性がチック症状を発現すると考えられています。
 また双生児研究などから、遺伝的要因も関与していることが示唆されています。統合失調症や自閉症と同じように、かつては「親の養育」「家族機能」などに原因を求められたこともありましたが、現在ではそれらの説は否定されています。しかし精神的ストレスで悪化するなど、症状の増悪に環境要因が関与しているのは事実です。また、社会的に広く見られる左利きの者に対する強引な矯正などでそのストレスの後遺症により発症することがあるとも言われています。

 チックは一般の小児科や心療内科において比較的容易に診断可能です。現在はDSM-IV(米国精神医学会編集による『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第4版)の診断基準が用いられています。この診断基準によると、チックとは18歳未満で4週間以上持続するものをいい、小児~青年期に現れ成人するまでに自然に消えることも多いのですが、大人になっても症状が持続したり再発したりすることもあります。その種類と持続時間によって3種に分類されます。しかし実際にはチックの臨床像は一過性チック障害からトゥレット症候群まで連続性があり、必ずしも3種に分類されません。
 チックの初発症状としては強いまばたきが多い傾向にあります。その他、口角の動きなど顔面のチックや、頭を振る頸部のチックからはじまることが多く、チックが手からはじまることは多くありませんし、体幹、足からはじまることは極めてまれです。チックに関連した疾患の中でも、多彩な運動性チックと音声チック、および特異な性格傾向を示すトゥレット症候群では、40%以上に注意欠陥・多動性障害(ADHD)を合併します。また学習障害を合併していることもあります。鑑別診断としては意識がはっきりしていて、不随意運動をきたす様々な疾患が対象となります。すなわち舞踏病、突発性ジスキネジア、部分てんかんなどです。

②眼瞼けいれん

 本態性の眼瞼けいれんは、局所性ジストニアに分類され、他のジストニアと同様に、大脳基底核を含む運動制御システムの機能障害によって生じると考えられています。その他、パーキンソン病などにみられる症候性、向精神薬などの投与後にみられる薬物性の眼瞼けいれんがあります。
 特に40~60歳代の中高齢者で発症率が高く、男女比は1:2~3と女性に多くみられます。

③こむら返り

 こむら返りになる原因は、はっきり解明されていませんが、冷えやミネラル不足、筋肉の疲労、運動不足などが挙げられるほか、女性は妊娠中にもよく起こります。寝ているときによく足がつる人で、膝の裏などの血管の凸凹が目立つ場合は、下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)の可能性も考えられ、足のむくみが関係していることもあります。

(2)東洋医学的原因・機序

 種々の痙攣は、肝の働きに関係すると考えられています。肝の主な働きは気・血(けつ)・津液(しんえき)の巡りをコントロールすることです。特に気と血の巡りに強く関係しています。これらの流れを調節するはたらきを疏泄(そせつ)と呼びます。それ以外にも肝は血の貯蔵、精神状態の安定化にも貢献しています。他にも肝は眼、爪、筋肉のはたらきやその状態を支えています。ストレスを継続的に受け続けると肝の気や血を巡らすはたらきである疏泄がうまくいかなくなってしまいます。結果的に疏泄が失調してしまうと気滞(きたい)や瘀血(おけつ)が起こってしまいます。このような状態が長引くと肝に蓄えられている血が消耗してしまい、肝血虚(かんけっきょ)や肝陰虚(かんいんきょ)も進行してしまいます。
 肝に供給される血や、肝に蓄えられている血が不足している状態を肝血虚と呼びます。この場合、肝のみの血が不足しているわけではなく、全身的な血が不足している上で肝の血虚がより顕著なケースを指しています。肝血虚の具体的な症状としては眼精疲労、視力低下、まぶしさ、めまい、立ちくらみ、爪や肌の荒れ、抜け毛、筋肉の痙攣、こむらがえり、ひきつり、生理不順などが挙げられます。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 特にストレスによるものに対しては、鍼灸治療の効果が期待できます。鍼灸治療で全身の血の循環を良くし、自律神経のバランスを調整して、体をリラックスさせることにより痙攣の症状改善につながります。また痙攣箇所に直接施術を行うことで筋血流の改善をはかり、筋肉のコンディションを整えます。

(2)東洋医学的鍼灸治療

 同時に、全身への施術を行い、脾、肝などの臓腑の機能を改善させます。脾が正常に機能することで、しっかり栄養を吸収し、消耗した気血を作り出せるようになります。また、肝が正常に機能することで気血の流れがよくなり、作り出した気血を全身のすみずみまで行き渡らせることができるようになります。その結果、筋肉の状態だけでなく肌や爪の状態も改善されます。
 治療穴の例として、脾の運化作用が失調し気や血の生成不足が生じている場合には、足三里、脾兪、胃兪、気海、肝・腎などの機能低下の場合には、太衝、太渓、三陰交、腎兪、肝兪などを使います。