1.症状

 月経不順とは、月経周期が異常に長くなったり短くなったりするものをいいます。
 月経周期の正常範囲は25~38日です。正常な月経周期が保たれるためには、卵巣や脳の下垂体からのホルモンが重要な役割を果たしています。一時的に月経周期がずれるのはよくあることですが、周期の違いが3回以上続くときは月経不順を疑いましょう。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 月経は女性ホルモンである卵胞ホルモンと黄体ホルモンのバランスによって調整されています。卵胞ホルモンによって成長した卵子が排卵され、受精卵を受け止めるための子宮内膜が厚くなっていきます。その後、黄体ホルモンによって子宮内膜の厚い状態が維持されますが妊娠せずに子宮内膜が不要になったとき、月経という形で外に流れ出てきます。この周期が月経です。
 3ヶ月以上月経がこない場合を無月経、周期が24日以内を頻発月経、周期が39日以上3ヶ月未満を稀発月経といいます。排卵せずに月経が来ている場合を無排卵月経といいます。2~3ヶ月月経が不規則になってもそのあとに自然に正常な周期に戻るようであればあまり心配はありません。
 月経不順はホルモンバランスの乱れ、日常生活のストレス、急激なダイエット、身体の冷えなどによって起こり、日ごろの生活習慣に関与するところが大きいと言われます。子宮や卵巣といった生殖器の疾患や、下垂体や甲状腺等のホルモン系の疾患、また貧血なども月経不順の原因となります。このような疾患が潜んでいる場合がありますので、3ヶ月以上月経が来ないようであれば、婦人科の受診をおすすめします。

(2)東洋医学的原因・機序

 東洋医学の考えでは、月経周期が7日以上早まった場合を「経早」あるいは「月経先期」、月経周期が7日以上遅れた場合を「経遅」あるいは「月経後期」、月経周期が一定しないものを「経乱」といいます。
 月経は、排卵・妊娠するために行われる役割のひとつとして考えられ、「女子胞(子宮)」から体外に血を出すことをいいます。正常な月経を行うのに関連している臓腑は腎・肝・脾・心だと東洋医学では考えられています。
 「腎」は生まれたときからもっているエネルギーを蓄えており、それが充実すると「天(てん)癸(き)(性ホルモン)」が活動し始めます。「天癸」の活動により、女子胞が「排卵-月経」のローテーションをつくりだします。「脾」は食べ物を消化しエネルギーを作ります。その大量のエネルギーを「女子胞」に送り込むことで「心」が血を生みだし、脈を動かします。こうして血が全身に巡ることで正常な月経が行われるのです。「肝」は血を貯蔵し循環させるタイミングを調節しています。

 「経早」は女子胞に血熱(身体にこもった無駄な熱)がこもることにより、血の流れが加速されることでおこります。例えば、唐辛子などの香辛料を普段からたくさん摂取している人は体内に熱がこもりやすくなります。また、過剰なストレスによりイライラしている人も「肝」の熱が発生しやすくなります。慢性的な病気などで身体が弱っている場合も経早になることがあります。これは血などの物質を体内に一定量になるまでとどめておくエネルギーが不足するからです。

 「経遅」は寒さが女子胞にとりつくことでおこります。例えばアイスなどの冷たい食品や飲み物を多く摂取したり、冷房に長時間当たったりすることにより寒さが身体に入り込みます。慢性的な冷え性なども女子胞が冷える原因の一つです。また、血そのものの生産が少なく一定量に達するのに時間がかかる場合や、ストレスなどにより肝の働きが弱まり女子胞に血が流れにくくなることも経遅になる原因です。

 「経乱」がおこる原因は「肝」と「腎」に関連していると考えられています。肝腎はいずれも経早経遅となる原因をもっており、例えば腎のもつエネルギーが少ないことが熱をこもらせる原因となり「経早」となる場合もあれば、エネルギーが少ないことで全体にめぐらせる力が不足して「経遅」となる場合があります。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 鍼灸治療では、頸部や腰背部の筋肉の緊張を緩めることで自律神経、特に副交感神経の働きを正常にして心身のストレスを緩和させます。自律神経のバランスが整うことでホルモンのバランスも整いやすくなります。身体の冷えは卵巣の血液循環も停滞させるため、正常な働きを妨げ月経不順の原因となることもあります。血行不良の改善に下腹部(卵巣や子宮など)、腰部、仙骨部など圧痛、硬結の反応がみられる部位や経穴に鍼やお灸を行います。
 鍼灸治療は副作用の心配もなく、体質を改善していけるので、何よりも安心して治療を継続していけます。また規則正しい生活リズム作りや正しい食生活、ストレスの解消等、日常生活の見直しも指導として行います。

(2)東洋医学的鍼灸治療

 東洋医学では、月経中の鍼灸治療は禁忌とされています。これは、鍼灸治療により血流がよくなることで大量に出血し体力が奪われるのを防ぐためです。月経不順の治療はタイミングが重要視され、月経前に行われるのが良いとされています。
 経早の場合、「関元(かんげん)」「血(けっ)海(かい)」などのツボを使い、体内にこもっている熱を取り除き月経を調節する治療を行います。
 経遅では、「気(き)海(かい)」「気(き)穴(けつ)」「三陰交(さんいんこう)」(ツボ)に灸をして、寒さを取り除き経絡(エネルギーの通り道)を温める治療を行います。
 経乱の場合は「関元」「三陰交」などのツボを使い、肝腎のバランスを整えて月経不順を改善する治療を行います。