1.症状

 一般成人の排尿回数はおおよそ5~7回程度と言われ、これを超えて日中に8~9回、夜間では1回以上行くようになると「頻尿」といわれます。頻尿の原因は年代別で特徴があります。20~30代は細菌感染、40~50代は女性ホルモンの低下、出産による骨盤底筋(骨盤の底にあり、膀胱、腟、子宮、直腸といった臓器を支えている筋肉)のゆるみが出始め、60代は尿道や膣が狭窄して頻尿になるなどと言われます。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 尿を貯めること(蓄尿)と尿を出すこと(排尿)は筋肉の動きで行われています。蓄尿は、尿を貯める膀胱の筋肉が緩み、同時に出口である尿道の筋肉がしまることで可能になります。反対に、膀胱の筋肉が収縮して尿道の筋肉が緩むことで排尿が可能となります。排尿は、尿が膀胱にいっぱいたまると脳に信号が送られ、脳からの『排尿しましょう』という信号により、尿道の筋肉が緩み、膀胱が収縮することで起こります。
 頻尿の原因には細菌感染、過活動膀胱、骨盤底筋のゆるみ、精神的な理由によるものなどがあります。膀胱炎や尿道炎など細菌感染による頻尿に対しては抗生物質を使用しますが、それを度々繰り返す場合は抗生物質の使用を中止し、ビタミン薬を内服することもあります。過活動膀胱は脳血管障害や椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など神経系の病気になると脳からの信号が膀胱に伝えられず頻尿や尿失禁がおこると言われています。治療としては膀胱の異常な収縮を抑える薬の使用をします。
 骨盤底筋のゆるみの改善には、肛門を絞める動作を繰り返し、筋力の強化を行うことが必要です。

(2)東洋医学的原因・機序

 東洋医学の考えでは、頻尿・尿閉など排尿障害を淋証といいます。また排尿に特に関係する臓腑は「腎」と「膀胱」です。
 「腎」は、運ばれてきた津液(体内の水液)を必要なものと不要なものにわけ、不要な津液を気化し尿に変化させます。「膀胱」は尿を貯蔵と排泄を行います。この他に「肺」「脾」「肝」の変調も頻尿の原因となります。
 腎や肺、脾のエネルギーが不足している人は、津液を身体に巡らせる機能が低下し、むくみや頻尿の症状がでます。水のように薄い尿や夜間の頻尿が特徴で、高齢者や慢性疾患で身体の機能が低下している人にあらわれます。それに加え、身体の冷えや足腰のだるさが多くみられます。
 慢性的に続くストレスや緊張により、肝の気の流れが滞ることで起きる頻尿もあります。肝には、体の諸機能を正常に調節する働きがあります。肝気の流れが滞った影響を膀胱がうけると、少ない尿量でも尿意を感じるようになります。残尿感があり、女性では月経不順や月経痛などの症状を伴う場合もあります。
 また、暑くもないのにダラダラと汗をかき、尿意が我慢できずに度々トイレに行く人は、水分などの物質を体内にとどめておく気のエネルギー(固(こ)摂(せつ)作用)が弱まっていると考えられます。尿量は普通ですが、疲れると症状が悪化しやすいのが特徴です。
 頻尿に排尿痛や灼熱感を伴い、尿が濁ったりする場合は膀胱炎や感染症であることが多く、専門の医療機関の受診をおすすめします。これは飲食不摂生や不衛生な性交渉などにより湿熱(しつねつ)の邪が体内に入り引き起こされるのです。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 膀胱筋の過緊張や少しの尿量で尿意を催す過敏性を軽減するため、骨盤周囲の余分な筋緊張やコリの除去、自律神経のバランス調整などを行います。また、陰部には常に細菌が存在しており、膀胱や尿道の細菌感染による頻尿は泌尿器粘膜の抵抗力の低下を示しています。抵抗力は身体の冷えやコリによる循環障害、心身の疲労などにより低下します。下肢や下腹部、腰周囲などへの鍼やお灸により特に局所の血行不良を改善させます。加えて、頸肩部、頭部などへの治療により全身の緊張緩和をはかり自然治癒力を高めます。

(2)東洋医学的鍼灸治療

 急性期の排尿痛を伴う頻尿については、専門の医療機関での治療が必要です。
 慢性的な頻尿については、症状や体質などから原因を診断します。排泄にかかわる「腎」「膀胱」に対するアプローチとして、「腎兪(じんゆ)」「中(ちゅう)極(きょく)」「次髎(じりょう)」などのツボに温灸や鍼をします。またストレスなどにより「肝」の働きが悪くなっている場合は、「太衝(たいしょう)」や「曲(きょく)泉(せん)」などのツボを使い、肝気の流れをよくします。汗をダラダラかくなど気の固摂作用が弱まっている場合は、「関元(かんげん)」や「気(き)海(かい)」に温灸や鍼をすることで膀胱のエネルギーを高め、症状を改善します。
 頻尿の治療では、「腎」や「膀胱」だけでなく、「肝」「脾」「肺」を含む全身の状態を確認します。身体全体のバランスをとりながら体質改善および頻尿に伴う冷えなどの症状を緩和する治療をします。