1.症状

 夜尿症とは、睡眠中に無意識に排尿をすることをいい、「5歳を過ぎて1か月に1回以上の頻度で夜間睡眠中の尿失禁を認めるものが3か月以上つづくもの」と定義されています。どの年齢においても男児が2~3倍多いです。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序

 夜尿症は親の育て方や子どもの性格の問題ではありません。夜寝ている間の尿量が膀胱に貯められる尿量より多いと、夜尿症につながります。
 睡眠中に膀胱がいっぱいになっても、尿意で目を覚ますことが出来ないという覚醒障害を基礎として、膀胱の働きが未熟である(膀胱の容量が小さい、ある程度膀胱に尿が溜まると膀胱が勝手に収縮してしまう等)、夜間尿量が異常に多い等いくつかの原因が複合しておこります。
 原因としては、遺伝的因子、膀胱機能の成熟の遅れ、精神的ストレス、器質的原因等です。まれに夜尿症のなかには、腎臓・膀胱・尿道・脊髄・内分泌・神経・精神などに異常のあることがありますが、その割合は夜尿症全体の1%以下です。

(2)東洋医学的原因・機序

 東洋医学的に、夜尿症の発症には、排尿をつかさどる腎と膀胱の働きが直接関わります。腎気の助けを受けて、膀胱が尿を貯めておいたり排泄したりします。熱によってその機能が障害されたり、腎気が弱ってうまく機能しなかったり、肺・脾・三焦など水分代謝に関係する臓腑の不調が影響したりします。
 虚弱体質や病中病後の気の不足による『腎気不足』では、尿量や排尿回数が多く、冬や寒いとき、また疲労がたまると夜尿が悪化します。足腰の力が弱い、成長・知育発達の遅れ、顔色が白い、手足の冷え、寒がりやすい等の症状を伴うことがあります。
 七情内傷(度を越した感情による内臓の失調状態)、慢性疾患、暴飲暴食による『脾肺気虚』では、排尿回数は多いが尿量は少ない、疲労がたまると夜尿が悪化するといった特徴があります。また、随伴症状として、疲れやすい、身体がだるい、気力がない、呼吸が浅い、息切れ、食欲不振、便がゆるいなどがみられます。

3.鍼灸治療

(1)現代医学的鍼灸治療

 小児はりは、それぞれの子どもにあった適切な刺激量で行います。子どもに「はり」と聞くとびっくりするかもしれませんが、皮膚表面をほんの数グラム~数十グラムの圧で数分程度さするだけのものや、先の丸い金属の棒を軽くあてるもの、ローラー型の美顔機のようなものでコロコロとなでることもあります。反応をみて刺激に耐えられる体質の子どもには、大人と同じ皮膚に刺入する鍼を使用することもあります。それらを使って、下腹部・腰部・仙骨部・下腿内側部に施術を行います。
 小児はりをすると、自律神経が整いしあわせホルモンのオキシトシン(授乳中の母親から出ていることで有名)が分泌されることが科学的にわかっています。心地良い刺激としあわせホルモンの分泌により、ストレスや冷えで硬くなった筋肉も緩和され自然治癒力が高まります。自律神経はホルモンバランスの回復にも大きく影響しています。
 夜尿症は、鍼灸施術とともに就寝前の排尿習慣をしっかりつけることも大切です。

(2)東洋医学的治療

 腎気不足の場合、小児斜差の灸、命門、関元、腎兪などに小児はりやお灸をして腎気を高めます。脾肺気虚の場合、命門、足三里に加え、肺気虚であれば肺兪、脾気虚であれば脾兪を使います。上記どちらの原因においても、バランスのよい食事をとり、無理のない運動習慣をつけることや、下腹部を温めるのも有効です。
 それに加え、中髎穴への鍼灸や小児はりなどを日常的にとりいれ心と身体の調整を行うことで、夜尿症の予防にもなります。