先日、武術と野球の共通点をテーマに特集されているテレビ番組を観ました。

番組の中で、刀や手裏剣などを用いるどんな武術も、その道具を【握る】ことはしないと話されていました

 

野球選手もピッチングを行う際、「ボールは握らない」 「ボールには落とさない程度に指を添えているだけ」と説明されており、

『バガボンド』の「腕はないものと思って振ってください」のシーンを思い出しました。

 

井上雄彦先生の『バガボンド』は私のバイブルのひとつ。

吉川英治さんが書かれた小説『宮本武蔵』を原作として、井上雄彦さんが描かれた漫画です。

 

宮本武蔵が農民の女性たちに刀の振り方を教えるシーン、私が好きなシーンのひとつを思い出しました。

 

 

 ―「自分の体とは違うものを持っているから、放しちゃいけないと力いっぱい握る。

   手にしたその得物で相手を斬る。余計に放すまいと力を入れる。

   でもその力は、相手を斬るのには使われず自分を縛るだけ。」― 

   (『バガボンド』より引用)

 

 

テレビ番組の師範や元プロ野球選手も同じことを話していました。

 

道具を握れば腕に力が入ります。

力が入った腕で相手を打ったとしても、相手はその衝撃を受け止めることができます。

逆に、道具を握ることをせず、体幹からの動きの連動で相手を打つと、

相手が飛んでいってしまうほどの衝撃を与えることができます。

 

ボールを握れば握るほど、スピードも出なければ思うように投げられません。

逆に、ボールを握ることをせず体幹からの連動で投げると、スピードも投球の種類のコントロールも可能になります。

 

 

 

 ―「腕は真面目で頑張り屋。

   欠点は1人で頑張りすぎること。脚や腹、腰やヘソ、他の連中をすぐ忘れる。

   だから時々、腕はないと思って振る。」―  

   (『バガボンド』より引用)

 

 

真面目だから、頑張り屋だから、知らず知らずに力んで硬くなって本来の力を発揮できなくなってしまいます。

 

 

ボールを投げるのにボールを握らない。刀を振るのに刀を握らない。

じゃあいったい、その手は、その時、何をしているのか?

 

手は、ボールや刀を握るための運動器官であると同時に、ボールや刀に触れる感覚器官でもあります。

 

ボールがどんな感触なのか?

刀がどんな重さで、どうバランスを取れば無駄な力を加えずに持つことができるのか?

 

手はまず、ボールのことを、刀のことを、感じているのではないかと思います。

 

 

 

昔、ボディワークのある先生に、

「大人は、今までの経験からの憶測で物を掴むから、余分に力みが入るんだ。

小さな子供は、まずそのものがどんな質感か、重さかを確かめながら、必要な力だけを使ってものを持ち上げるだろう?」

と言われたことがあります。

 

その時、改めて自分の生活を見直してみると、

キーボードは「バチバチバチーン!」、ドアノブは「ぎゅぎゅっ!ドーン!」、包丁は「ぐぐぐぐぐー」、歩く足音は「どかどかどかどかっ」

 

私の身体は常に力んでいました。

それもあってか、怪我もよくしていたし、手先足先は冷えひえで、気持ちもネガティブになりやすかったように思います。

 

先生に言葉をかけていただいてから、ひとつひとつ生活を見直すことにしました。

 

一体どのくらいの力があれば、キーボードが作動するんだろう?え!?こんなにちょっとの力でキーボードを押せるのか・・・。

ドアノブを回す動作も、優しく触れて回すだけの小さな力で済みました。 

包丁を握る手の力を緩めると、逆にスッと切れ味が上がり、料理が上手くなったように感じました。

足音を立てず歩こうと、床に触れる足裏の感触を意識すると、自然に丹田に力が入りました。

余分な力みが抜けて、怪我をすることが少なくなり、柔軟性が上がりました。

それまでは「冷たいから触らないで」と言われていた手先足先も、「あったかいね~」と言われるようになりました。

 

 

 ―人間の五感による知覚(情報判断)の割合は、

  「視覚83.0%、聴覚11.0%、嗅覚3.5%、触覚1.5%、味覚1.0%」―

  (『産業教育機器システム便覧』(教育機器編集委員会編 日科技連出版社 1972)より引用)

 

 

私たちの知覚のほとんどが、視覚からの情報です。

 

【触覚はたった1.5%】

その1.5%を大切に丁寧に活かすことは、私たちの毎日をさらに豊かにさせてくれるものになるのではないか。

何か大切なことに気づかせてくれるものになるのではないか。

 

そんなことを考えさせられた番組でした。 

 

神戸東洋医療学院付属治療院

北條 直

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