1.症状

不眠症には4つのタイプがあります。
・床に入って寝つくまでに通常より時間がかかる『入眠障害』
・一旦寝ついても睡眠中に何度も目が覚めて、一度起きたあとなかなか寝つけなくなる『中途覚醒』
・起きたときにぐっすり眠った感じの得られない『熟眠障害』、
・朝、普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう『早朝覚醒』
以上の訴えのどれかがあること。
そしてこの様な不眠の訴えが週2~3回以上みられ、不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たす場合、不眠症と診断されます。
また持続期間によって一過性、短期、長期に分類されます。

入眠障害は、精神的な問題、不安や緊張が強いときなどに起こりやすく、中途覚醒は不眠の訴えの中で最も多く、中高年でより頻度が高くなっています。
早朝覚醒は高齢者に多く、熟眠障害は他のタイプの不眠症を伴っている場合も多くあります。

2.原因・機序

(1)西洋医学的原因・機序
覚醒と睡眠のバランスが崩れ、「覚醒」させる機能が「睡眠」を誘う機能よりも上回ってしまった場合、不眠がおこります。健康的な睡眠バランスの乱れは、就寝直前までテレビを見たりパソコンやスマートフォンを使ったり、激しい運動や熱いお風呂に入る、ストレス、カフェインやアルコールの摂取、薬の影響などによって脳を強く興奮させることで起こります。
また就寝・起床のリズムが不規則になることも症状を引き起こしやすくし、助長させることにもなります。

(2)中医学的原因・機序
中医学では、不眠の症状を「心(しん)」の不調と考えます。「心」は血液の流れと精神活動の中枢を担う臓腑です。さまざまな原因で「心」の血が不足すると精神が不安定になり不眠の症状が現れます。
特に「心」に影響を与えやすい臓腑は「肝」「脾」「腎」でこれらの不調は「心」の不調の原因となり、不眠を発症させやすくします。

「肝の不調」
・イライラや怒りによる不眠(肝火擾心)
肝の気の停滞が不眠の原因になります。中医学の考えでは、肝は血液を貯蔵する働きを持ちます。夜に眠くなる原因の一つは夜間に肝に多量の血液が流れ込み、脳に行く血液が少なくなるからだと言われています。
怒りの感情で肝の機能が低下してしまうと、脳に血液が留まったままになり眠ることができません。またイライラや怒りなどの感情が強いときは肝の気の流れが滞り、余分な熱が生まれます。この熱も心の機能を妨げることとなります。
肝が原因の不眠症は興奮して落ち着かず、つい起きて活動してしまいがちで、眠りについてもすぐに目が覚めてしまうなどの特徴を持ちます。

「脾の不調」
・過労やストレスによる不眠(心脾両虚)
心労や働きすぎなどにより、脾が充分な血を作れなくなり、心血が不足することで精神不安となり不眠症を引き起こします。寝つきが悪い、夢を多く覚えている、動悸、健忘、倦怠感、顔色が悪いといった症状もみられます。

「腎の不調」
・高齢者や病み上りの不眠(心腎不交)
働きすぎ、過度な性交渉、長患いなどで腎陰を損傷すると、腎の心を調整する働きが弱り、相対的に心の機能がたかぶって不眠症になります。寝ついても、すぐに目が覚める。口やのどが渇く、耳鳴り、健忘、めまいといった症状が併発しやすくなります。

3.鍼灸治療

(1) 現代医学的鍼灸治療
副交感神経を優位にする百会、合谷と言ったツボを利用します。他にも、神門・労宮・湧泉・安眠も不眠に効くツボとしてよく知られています。
これらのツボを心地よい程度に刺激すると副交感神経が優位になり眠りにつきやすい体の状態になります。
日中、起きている時の体は交感神経が優位になっていて体温、呼吸数、心拍数、血圧は上昇し骨格筋は緊張して活動しやすい状態になっています。
就寝時、副交感神経が優位になると、体温、呼吸数、心拍数、血圧は下降し、脳と体がリラックス状態になり眠りにつきやすくなります。
日中の緊張状態から心身を解放することは、精神的な安定にも効果があり、より良い睡眠を得られるようになる条件のひとつでもあります。

(2)東洋医学的鍼灸治療
それぞれの症状をみて、どの臓腑の不調が不眠の原因となっているかを見極め、その臓腑の機能を正常な状態に戻す治療を行います。
暴飲暴食等、食生活による不眠(痰熱擾心)の場合、胃腸の機能を正常にすることで、体内の余分な水分を排出しやすくし、痰熱を取り除きます。これには中脘、豊隆、天枢といったツボを使います。
イライラや怒りによる不眠(肝火擾心)の場合、肝火を抑えて気の流れをよくすることによって、精神的に安定させるように治療を行います。これには肝兪、胆兪、太衝、行間などのツボを使います。
過労やストレスによる不眠(心脾両虚)の場合、脾の機能を健やかにして気血を充分に作ることで、心を養えるように治療を行います。これには脾兪、胃兪、神門などのツボを使います。
高齢者や病み上りの不眠(心腎不交)の場合、腎を補い、心のたかぶりを抑えて、精神的に安定させるように治療を行います。これには腎兪、心兪、神門などのツボを使います。