春の息吹がますます盛んになり、新しい命が多く誕生する季節となりました。

それに対をなすように、命の終焉を迎えることもまた、自然の摂理といえます。

今回はそんな「命の終わり方」について、少し考えてみたいと思います。

 

先日、長年施術させていただいていた患者さんが亡くなられました。

97年のご生涯でした。およそ26年間、鍼灸治療を通じたお付き合いでした。

施術中には、健康や病気に関することはもちろん、戦時中のご苦労やお商売の在り様、趣味でされていた踊りや三味線のことなど、多くのことを教えていただきました。

 

この方は来院当初からその時々の症状に加え、希望されていることがありました。

それは、「長患いをせずに安らかに命を終えたい」ということでした。

その思いは切実で、お出会いした時にはすでに、三人のお姉さま方を大病の末に亡くされておられたためです。

ですから、自分のお姉さま方と同じような病になり苦しみたくないという思いは人一倍でした。

 

思いの強弱はあれど、ピンピンコロリというように毎日元気に過ごし、穏やかに生涯を閉じることができるなら幸せだと思われている方が大半ではないでしょうか。

ただ私はこのように生涯を終える方がどれくらいの割合おられるかは知りません。

そのため、私にとってこの方の希望にどれほど自分自身が役に立つのかわかりませんでしたが、私がさせていただける最善を、という思いで臨みました。

 

人が元気に過ごすということはどういう状態でしょうか?

これも実際は人により望ましい状態には違いがあると思います。

例えば、毎日飛び回るように生活を送ることや趣味の旅行や登山などができること。好きなお酒やたばこを美味しく嗜むこと。日々穏やかに過ごせること。それこそ「元気についてあれこれ考えることがないこと」かもしれません。

 

私が考える元気で健やかな状態は、自分が行きたいところに行ける、適度においしい食事ができる、自分と関わる人たちとコミュニケーションがとれる、気持ちが和んだり浮き立つような時間を過ごせる。

このような状態ではないかと思っています。

このことからも心と身体の両方の健康が大切だと考えています。

 

同時に、心身の健康にはお互いが作用しあっていることも忘れてはいけません。

ストレスを抱えた心は体に様々な兆候をきたしますし、反対に体に苦痛を感じていると気持ちの余裕も失いがちになります。

心身の病気や症状は生まれながらの原因によるものもありますし、体質・性格からくるものもあります。

そうとはいえ、これら以上に健康を保つためには、日々の生活習慣が重要な要因です。

毎日の食事内容や嗜好品の割合、有酸素運動の有無、日常のストレスのコントロール、心身のケアなどにより、発症率や健康寿命の長短に差が生まれます。

 

ここでさらに大切なことは、その方一人一人の体質や性格に合わせ、どのような生活習慣を選ぶかということです。

私たちはマスメディアで報じられる健康情報に飛びつきますし、権威のある先生のアドバイスを妄信しがちです。

しかし、私たちの内臓の強さや免疫力や筋力などは異なります。

99%の人にとって正しい内容であったとしても、果たしてその内容が自分にあっているのかどうかはわかりません。

正直、その答えは自分の体で確かめてみるしかないのです。

 

民族性や地域性を踏まえた医学データは意味がありますし、自分の血縁者の健康状態や疾患は、自分の体調管理の参考になります。

体質が似通っている血縁者がどのような食事を摂り生活を送っていたかを改めて意識することで、他人の健康情報よりも意味深くなるのではないでしょうか?

 

こういうことを踏まえ、患者さんにとってより良い生活習慣を、体調を見ながら一緒に見つけていきます。

また長く自分の足で歩き続けられるよう足腰のケアも、私たち鍼灸師の大きな役割の一つだとも感じています。

 

 

このような考えのもと、先ほどの患者さんとは長いお付き合いをさせていただきました。

途中、心臓弁膜症の手術を80代半ばで受けられたりもしましたが、主治医が驚かれるほどの回復力でその後も元気に過ごされたり、膝痛で杖が必要となった時期もありましたが、お教えした筋力トレーニングを欠かすことなく真面目に続けられ、最後までご自身の足で歩かれていました。

 

亡くなられる五か月前からは安心のために施設に入られましたが、亡くなられる当日も3時のおやつをいただかれ、その20分後に職員の方が訪ねられたときに、眠っておられるように亡くなられていたとご家族の方からご報告をいただきました。

ご報告を受けた私自身、うらやましいと思える最期でした。

 

 

人がどう生きてどう死ぬかについてもう一度考える機会を得ました。

人の死生観は様々ですので、私自身の価値観を押し付けようとも思いませんし、体に十分注意していても不慮の事故に遭遇する可能性もあります。

何が答えかは個人個人違って当然だと思います。

 

私は「死ぬときになるべく後悔は少ない方がよいなあ」と考えている程度です。

だからこそ、今どう生きるのかを逆算し、過ごせればと思っています。

 

私たちにとって深いテーマですが、皆さんはいかがでしょうか?

 

 

神戸東洋医療学院 付属治療院

川上 靖

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