4月某日、趣味の演劇鑑賞のために東京まで行ってきました。

毎年観る劇団の作品です。

今回も奥深いテーマで難しくはありましたが、俳優さんたちの素晴らしい演技に感性が揺さぶられ、よい刺激をもらうことができました。

 

翌日は、行ってみたかった場所に足を運んできました。

東京都墨田区にある『江島杉山神社(えじますぎやまじんじゃ)』です。

私たち鍼灸に携わる人にとっては、聖地とも言える場所かもしれません。

 

ここは「弁財天」と、江戸時代に活躍した鍼師である「杉山和一(すぎやまわいち)」を祀る神社です。

杉山和一は、江戸時代に徳川綱吉の治療も行ったことがあり、当時の盲人の最高位である「検校」という役職に就きました。

また、現代の日本の鍼灸で当たり前に使われている技術の一つである「管鍼法(かんしんほう)」を生み出した偉人です。

 

管鍼法とは、細い管の中に鍼を入れて、指先でトンットンッと叩いて鍼を皮膚内に刺す技術です。

鍼を受けたことがある皆さんも、叩かれている感覚を感じたことがあるかと思います。

この管があるおかげで、刺さったときにチクッとした痛みをほとんど感じることなく、施術を受けることができます。

鋭くとがった鍼先を刺しても痛みが少ないのは、この技術のおかげでもあります。

 

杉山和一は、若い頃に失明し、苦労をしながら鍼の修行を重ねていました。

なかなか技術が上達せずに悩んでいた頃、神奈川県の江の島にある岩屋にこもって断食修行をしていました。

満願の日、石につまずいて倒れた際に、足になにかが刺さりました。

それを手に取って見てみると、筒状になった椎の葉に松葉が包まっていたそうです。

「管を使えば、目が見えなくても痛みなく正確に鍼が打てる!」

これが、管鍼法として現在の日本鍼灸のベースとなっています。

 

それでも簡単な技術ではありません。

管の立て方や圧のかけ方、叩くリズムなど、細かい点にも気を付けなければ痛みなく刺すことはできません。

鍼灸師として何年経っても、基本として自分のやり方に問題がないか、ときどき振り返るくらいです。

杉山和一が躓いた石は、「福石」として、本社江島神社(神奈川県)に祀られているそうなので、

ご利益を授かるためにそちらにもいつか行ってみたいと思います。

 

将軍・綱吉の病を治した杉山和一は、将軍から欲しいものがあるかと聞かれた際に、「ただ一つ、目が欲しい」と答えました。

そこで、綱吉は、名前に「目」が入った「本所一ツ目」という広大な土地を彼に授けました。

 

杉山和一はこの土地に、視覚障害者のための鍼灸学校「杉山流鍼治稽古所」を移し、さらに教育を普及させました。

また、年老いた杉山和一が江の島までわざわざ参拝に赴くことを案じた綱吉が、江ノ島弁財天を勧請してできたのが、この江島杉山神社の始まりです。

 

境内には「杉山和一記念館」があり、その中にある「鍼灸あん摩博物館」では、江戸時代の経穴人形や資料、道具などが展示されています。

また、江の島の洞窟を模したとされている岩屋もあります。

足を踏み入れると、なんともいえない神秘的な空間が広がっていました。

素敵な御朱印がいただけるほか、鍼灸師の技術向上を成就したお守りなども授与することができます。

 

今回の旅では、鍼灸の祖である杉山和一の跡地に触れることで、初心を振り返り身が引き締まる思いがしました。

これからも、一鍼ずつ心を込めて、皆さまの健康をサポートしていきたいと思います。

鍼灸を受けたことがある方もない方も、機会があればぜひこの神社に立ち寄ってみてくださいね。

 

神戸東洋医療学院付属治療院

池邉 由実

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