わたしは、鍼灸マッサージを教える際、初学者の方に「集中しないでください。ボーっとしてください」とよくお伝えしています。

その際「テレビをボーっと見ているときのコマーシャルソングは潜在意識に残るため、覚えようとしていないのに何年たっても歌えます。

逆に、必死に覚えようとすると、なかなか覚えられないです」という例え話もよくしています。

 

集中すると「認知トンネリング」が起こります。

「集中力(コンセントレーション)」は、字のごとく「中心」に集めるのが語源です。

しかし、中心に集中してしまい、トンネルに入った時の視野のように周辺がみえなくなることを「トンネル・ヴィジョン」といいます。

特に、事前に予測を立てていると、その予測に合わせた情報のみに注目してしまい、予測と異なる「未知の情報」が目に入らなくなります。

初心者の頃は、何に注目するべきか分からず、まったくピント外れの情報に注目してしまいがちです。

集中してしまっているからこそ、周辺視野で起こっていることがみえなくなることが「認知トンネリング」なのです。

だからこそ、ボーっとすることで、周辺視野まで目に入るようになります。

 

 

理想的な心の状態は、原始人がジャングルの中で過ごしている状態です。

もしジャングルの中で、スマートフォンの動画や、マップ、テキストなどに集中しながら歩いていたら、周りが見えず、背後から動物が近づく足音や臭いにも気付かず危険な状態になります。

逆に、何も考えずに、集中せず歩いていたら、風の方向や匂いや音などに敏感になります。

これは目の前のスマートフォンに集中している状態とは正反対であり、自分を中心とした360度の周囲すべてを自分の心とする状態です。

 

将棋の羽生善治さんが、色紙によく揮毫する「八面玲瓏(はちめんれいろう)」という言葉があります。

八面、つまり前後左右、全ての方向に、澄み渡った心の状態です。

これは「認知トンネリング」の集中とは正反対の「心をどこにも置かない状態」です。

「ボーっとした心の状態」は、新しい知識を学習するには最適の環境となります。

 

人間の脳は、ついつい予測をしてしまいがちです。

最近は、痛みの「破局的思考」が科学で大きな話題になっています。

信頼できる人やメディアから「あなたは、その痛みを放っておくと歩けなくなる」と言われて信じ込んでしまうと、「このまま歩けなくなったらどうしよう」と不安に思ってしまい、本当に歩けなくなることがあります。

 

この悪循環から抜け出すには、「きっと痛くなる」という信念を無視して実際に「歩く」という行動を実践し、「痛いけど歩けた」という事実により信念を修正していく、「認知行動療法」という心理療法が有効です。

しかし、一度痛みに集中してしまうと、予測から信念が強化されてしまうという悪循環のループに入り込んでしまい、ここから抜け出すことが困難なわけです。

 

こういった状態の場合に有効なのが、一つは瞑想などでリラクゼーションを行い、ボーっとすることです。

間違った信念が外れやすくなります。

また、鍼灸を受けると、患者さんは自然と「ボーっとした状態」になります。

この時に、西洋医学で「デフォルト・モード・ネットワーク」という「ボーっとした状態」の時に働く脳のネットワークが、鍼をすることでさらに活性化します。

鍼の効果で、脳は「痛みのない状態」を再学習するのです。

 

ボーっとするのが苦手な方こそ、鍼灸を受けてみてください。

新しい自分や、新しい世界に出会える可能性が高くなることでしょう。

 

神戸東洋医療学院付属治療院

早川 敏弘

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