熱帯夜、何度も寝返りをうっている間にだんだんと空が白んでくる。

目覚まし時計より先にセミの鳴き声で起こされる。そんなぐっすり眠れぬ日々を過ごされていませんか。

 

しかし、この季節、私たちの健やかな睡眠を妨げるものは蒸し暑さやセミの鳴き声だけではありません。

耳元で羽音はすれども、いざ電気をつけると姿は見当たらない。電気を消して寝ようとすると、また耳元で羽音!

そうです。我らの安眠の大敵、蚊です。

命がけで血を吸いにくる蚊に私はいつも思います。痒くならないならこんなに疎まれることもないだろうに。多少、血くらい分けてあげるのに、と。

 

薬剤を加熱して蒸散させるリキッド式や、風で飛ばすファン式、吊るすタイプやスプレータイプなど、蚊の対策グッズも今では多様になってきましたが、私は昔ながらの蚊取り線香派です。

当たり前のように傍にあり過ぎて気づけなかった蚊取り線香について、今回はご紹介してみたいと思います。

 

蚊取り線香といえば「金鳥(キンチョウ)」が思い浮かぶ人が多いと思われますが、蚊取り線香の歴史は、大日本除虫菊株式会社(金鳥の正式社名)の創業者が線香に除虫菊を練り込むことを考案したことに始まります。

1890年に世界初の棒状蚊取り線香「金鳥香」が誕生しました。

しかし、棒状のものは立てて使うために線香が倒れ火災が発生することも少なくないうえに、一度の点火で長時間にわたって燃焼させることが難しいという欠点がありました。

現在一般的に普及している渦巻き形の蚊取り線香のデザインは1895年からのもので、とぐろを巻く蛇が発想の元になったそうです。

このデザインにすることで、燃焼時間が長くなり、かつ嵩張らない。また、寝かせた状態で使うので従来の形状よりも安全に取り扱えるようになりました。

 

蚊取り線香の殺虫効果は煙そのものにあると思われがちですが(私もそう思っていましたが)、実際には燃焼部分の手前で高温により揮発する化学物質にあります。

この化学物質には除虫菊から取れる天然成分のピレトリンや、その類似物質で化学的に合成したピレスロイドが使われています。

除虫菊の代わりにレモングラスの成分などを使用した製品もありますが、そちらには忌避効果はあるものの殺虫効果はありません。

 

火を使う、煙が出るといった点はデメリットとして見られてしまいそうですが、どこか懐かしさを感じさせる蚊取り線香の香りは日本の夏の風物詩と言ってよいでしょう。

また最近では、ローズの香りや森の香りなどアロマタイプの製品や煙の少ないタイプ、時間の長短などラインナップは非常に充実しているようです。

市販されている「せんねん灸」にも通じるところがありますね。

 

ちなみに大日本除虫菊株式会社という正式社名より、金鳥という商標のほうが一般的に浸透していますが、創業のきっかけを忘れないように社名は堅持しているとのことです。

 

大切な根本部分、信念は守りつつ、時代の流れや状況等に合わせてよりよい方向に変えていく柔軟さ。

企業理念や商品開発にとどまらず、人が生きていくうえで、あらゆることにあてはまるのではないでしょうか。

うだるような熱帯夜に蚊取り線香の煙を眺めながら、そんなことを考えていました。

 

 

神戸東洋医療学院付属治療院 池田 朋子