2015年度を迎え、当校も先日、入学式を行いました。

新入生の方々はきっと不安を抱えながらも、鍼灸治療で社会に貢献するという夢をもち、新たな一歩を踏み出されたことでしょう。

そんな皆さんの夢が実現し、実を結ぶよう、私たち教職員も一緒に努力を重ねたいと意を新たにする式典でした。

 

さて今回は、先ほど引用した「実を結ぶ」ということについてお話しします。

これはもちろん、植物が芽を出し枝葉を伸ばし、つぼみをつけ、花を咲かせ、実をつける(実を結ぶ)と、いう一連の成長の喜ばしい結果を表現する現象であり、言葉です。

私たちにとっては、この植物たちの一連の現象はあまりに当然の姿であり、もしかすると何の感慨ももたらさないかもしれませんが、本当はとても不思議で驚くべきことではないでしょうか?

 

植物が実をつけるにはご存じの通り、雄花と雌花が必要で、おしべ、すなわち花粉が仲間のめしべに出会うことが大切です。

もしも、梅や苺、桜など、それぞれの花が勝手な時期に好き勝手に咲いたとしたらどうでしょう?

そうなると、本来、2月ごろに咲く梅ですが、ある木は4月、またある木は8月というようになると、いくら風や虫や鳥などが介在したとしても、受粉の可能性はかなり低くなります。

これでは、私たちが梅干しや梅ジャムを賞味する機会がうんと減ってしまうことでしょう。

(これは余談でしたね。)

このようなことを改めて見つめなおすと、植物には同じ季節に花を咲かすというプログラムがあることがわかります。

そして、咲く期間が短い種類の花は月日を合わせて一緒に花を咲かせる必要があります。

同じ春といっても、菜の花とチューリップでは大きく時期がずれています。

約1週間から2週間という同じ期間に合わせなければ花粉のやり取りはできませんし、種類によっては月日だけでは不十分で、同じ時刻に合せる必要があります。

朝顔は朝ですし、月見草は夕方、月下美人は夜の10時くらいという風に咲き、数時間で花を閉じてしまいます。

 

ところで、花時計というものがあります。

神戸でも市役所の横にあり、季節ごとに入れ替えられた花たちを文字盤に見立て、その上を時計の針が動き、時刻を刻んでいます。

花時計は四季のうつろいを私たちに知らせてくれていますが、これは本来の花時計とは違うということを、先日、甲南大学の田中修先生の著書で知りました。

18世紀、スウェーデンの植物学者、カール・リンネが作ろうとした花時計は、時計盤上の花壇のそれぞれの時刻の位置にその時刻に花咲く植物が植えられており、どの場所の花が咲いているかを見て時刻を知る時計でした。

実際、リンネが描いた花時計には時刻を決めて花を開く植物だけでなく、時刻を決めて花を閉じる植物も混じっていたようです。

 

もともと花時計とは、多くの植物たちが同じ時刻に一斉に花を咲かせる性質を象徴したものです。

このことから、より多くの実を結ぶために一番大切なことは、美しく、ひときわ香り咲くことではなく、仲間たちと一緒の時刻に花を咲かせることだということがわかります。

きっと私たち人間も、周りの仲間たちとコミュニケーションをはかり絆を深めることで、よりよい実を結べるのではと、教えられます。

新入生の方々にも鍼灸師として実り多い人生を歩んでいただければと思います。

 

神戸東洋医療学院 付属治療院 川上 靖